住宅ローンにフラット35を使うには「適合証明」の取得が必要になります。
この「適合証明」という言葉だけ聞くと、難しそう・面倒くさそうと思えてしまうかもしれません。
しかし、実際には取得手続き自体は住宅販売事業者等が行ってくれるケースが多いので、なにか難しくて面倒なことをやらないといけないといったことはほとんどないのです。
むしろ適合証明の取得にあたって押さえておくべき本当の要点は、取得手続きより前にあると言っても過言ではありません。
今回は、
- 適合証明とは何なのか
- 取得に当たって知っておくべきこと
- 適合証明の取得に向けたポイント
- 適合証明を取れなかった時の対処法
を解説していきます。
本記事を読んでもらえれば、適合証明がどのような制度なのか、どうしたら取得できるか等が把握できます。基礎から応用までしっかり押さえて、不安なく適合証明を取得しましょう。
1.フラット35の適合証明とは?
適合証明は、フラット35を借りるには必ず取得しなければなりません。一方、民間の金融機関から住宅ローンを借りる際には取得する必要ないものであります。
そもそも適合証明とはどのようなものなのでしょうか?詳しく確認していきましょう。
1-1. 住宅が一定の技術基準を満たすことの証明
適合証明とは、住宅が独立行政法人住宅金融支援機構(以下、JHF)の定める技術基準に適合しているかどうかの証明のことを言います。フラット35を利用するためには適合証明の取得が必須であり、これが取得できないとフラット35を借りることができません。
適合証明が取得できるということは同時に、その住宅がただ建築基準法に沿っているだけでなく、さらに質の高い住宅であることが第三者機関によって認められたということも意味します。その恩恵として、フラット35という政府系の全期間固定金利型ローンの借入ができたり、フラット35S(Aプラン・Bプラン)という金利優遇プランを利用できたりするのです。
一方、民間の金融機関は適合証明は不要であり、上の図のような住宅の性能による優遇はありません。民間の金融機関にとって重要なのは「ちゃんとお金を返ってくるか」ということなので、契約者の収入や勤務状況が審査の大部分を占め、住宅の質はほとんど考慮されないのです。そのため適合証明を取得しても意味がないという訳です。
1-2. 住宅の性能を5つのテーマに沿って確認する
適合証明では、住宅の性能を5つのテーマに沿って確認します。
それらのテーマは建物の構造に関する事柄が多いため、内覧等で一般の人が容易にチェックできるようなものではありません。故に、検査は第三者機関に依頼することになります。
適合証明が重視する5つのテーマとはどのようなものなのか、確認される住宅の性能とは何なのか等を知っておくのは、物件選びで役に立つこともあると考えられます。以下にポイントをまとめてみました。
このうち、フラット35の適合証明取得に当たっては、①②⑤のテーマで技術基準に適合することが条件とされています。
フラット35のホームページにはセルフチェックシートが用意されているので、気になる方は物件選びの時にチェックしてみましょう。
設計・現場検査セルフチェックシート(一戸建て等(一般用))
設計・現場検査セルフチェックシート(共同建て用)
※共同建てとはマンションのことを指します。
1-3. 専門業者に依頼して取得する
適合証明の取得は、専門業者に依頼することになります。
この専門業者は、住宅事業者やモーゲージバンク(※住宅ローンを専門に扱う会社)とは別であり、JHFに適合証明検査機関や適合証明技術者として認定された業者を指します。
ハウスメーカーや不動産仲介業者から住宅購入を行うときは、ほとんどの場合、自分でこれらの検査機関等を探さなくても大丈夫です。事業者側が取得の段取りを組んだ状態で、取引のある先に申請を出してくれます。したがって手続き自体に難しいところはありません。
しかし、工務店や設計事務所に住宅建築を依頼するときは、自分で検査機関等を探さなければいけないこともあるようです。その場合には、まずは住宅ローンを申込む予定の金融機関やモーゲージバンクで相談してみましょう。
なお自分で探す際には、フラット35のホームページにある「適合証明のお問い合わせ窓口」を利用できます。フラット35公式の検索ツールなので信頼度の高い情報が掲載されています。
1-4. 取得の流れは物件によって違う
適合証明の取得の流れは、新築住宅・中古住宅で異なります。
流れは以下の通りです。
新築物件の場合だと、設計時に設計図面等の確認、建築途中と竣工時に目視による現場の確認という合計3回の検査を経て、適合証明書が交付されます。
中古物件の場合には、すでに物件があるので書類審査と目視による現場の確認で適合証明書の交付となります。
適合証明書が金融機関に提出できないと、住宅ローン契約をすることはできません。住宅販売事業者等を経由して適合証明を申請する際は、事業者にローン契約の日程を明確に伝えた上で証明取得の段取りを組んでもらうようにしましょう。
1-5. ローン借入契約までに金融機関に提出する
適合証明を取得したら、ローン借入契約までに金融機関に提出します。
一般的には、ローン借入契約の3営業日~5営業日前までに提出することがいいとされています。しかし金融機関によっては、契約当日にローン契約書と一緒に適合証明書を提出するのでも可としているところもあります。
適合証明書提出の早い遅いが購入者に不利にはたらくといったことはありませんが、提出ができないとローン契約はできません。提出期限は、借入予定の金融機関または取次をしてくれる事業者に事前にしっかりと確認しておくようにしましょう。
2.適合証明を取得する上で知っておくべきこと3つ
適合証明の取得は基本的に住宅事業者やモーゲージバンク等が顧客に代わって申請してくれます。
しかし取得にかかる費用や期間などは、後々の支払いや契約の段取りに関わってくる部分もあるので把握しておくようにしましょう。
2-1. 費用の相場は5~10万円だが、取得できなくても費用が発生する
適合証明を取得するために必要な費用の相場は5~10万円と言われています。
ただし、これは取得手続きではなく物件の検査にかかるものなので、適合証明が取得できなかったとしても費用が発生する点に注意してください。
少しでも費用を安くしたいなら自分で検査機関・検査技術者を見つけて依頼することもできます。しかしほとんどの場合、住宅事業者等には懇意にしている検査機関等がいます。そこに頼んだ方が、証書発行までの期間や書類チェックなどの事務的な面で融通が利くといったケースがあります。
費用を安くするよりトラブルなく手続きを進められる方が安心と思うなら、住宅事業者等にそのまま依頼する方がいいでしょう。
なお適合証明の取得にかかった費用は、住宅購入にかかる諸費用ということで住宅ローン借入金額の中に含めることができます。金融機関での手続きが終わって借入金が指定した銀行口座に入金されたら、速やかに検査機関へ支払いを行いましょう。
2-2. 証明書が手元に届くには1~3週間程度かかる
適合証明取得の証書(適合証明書)が手元に届くには、検査業者によって異なりますが、 発行依頼を出してから概ね1~3週間程度かかるとみておいてください。
適合証明書がないとフラット35の借入契約をすることはできませんので、発行までどのくらいかかりそうかという点は、依頼する前にしっかりと確認しておくといいでしょう。
2-3. 手続きを省略できる場合がある
選んだ物件によっては、適合証明の取得手続きを省略できる場合もあります。
適合証明の取得にかかる時間だけでなくコストも削減できるので、該当するなら積極的に利用しましょう。
まず新築マンションが「フラット35登録マンション」である場合が挙げられます。その場合、売り出しされる前からすでに事業者の方で適合証明を取得してくれているのです。「フラット35登録マンション」はフラット35のホームページにある「フラット35登録マンション検索」から検索できます。また、物件チラシに記載されている場合もあるので確認してみてください。
(出典:フラット35登録マンション検索)
中古マンション・戸建てであれば、物件が以下の5パターンに当てはまるときは適合証明の取得および提出は必要ありません。
また表にもあるように、ただフラット35を利用できるだけでなく、金利優遇プランであるフラット35Sを利用できる住宅もあるため、中古物件を購入する際は販売業者にしっかり確認するようにしましょう。
3.物件ごとの適合証明取得のポイント
適合証明を取得するには、物件選びも非常に大事です。
なぜなら、適合証明の取得にあたっての検査項目と必要な基準は厳密に決められおり、それら全てが基準を満たしていることが絶対条件だからです。「どこかがダメでも、ここが基準を大幅にクリアしているからOK」といったものではないのです。
したがって、確実に適合証明を取得するためには“適合証明を取得できる物件”を選ぶことが重要と言えます。
そこで、適合証明を取得できる物件を選ぶにはどのようにすればいいのか、ポイントをお伝えしていきます。
3-1. 新築マンションの場合、フラット35登録マンション検索を活用
新築マンションを探している場合、フラット35登録マンション検索を活用して物件を探してみましょう。
フラット35登録マンションとは、事業者の方で「今後フラット35の適合証明を取得予定」としてJHFにあらかじめ登録しているマンションのことです。もしこれで物件が見つかれば、適合証明を取得できるのはもちろん、適合証明を取得する手間とコストも無くすことができます。
2021年9月現在、フラット35登録マンション検索には、全国で1,609件の物件と142,698戸の部屋が登録されています。事業者にとって、販売する物件がフラット35の適合証明を取得すること=質の高い住宅としての認定を受けることはセールスポイントのひとつとなり得るので、今後も登録数は増えていくと予想されます。
購入物件に新築マンションを考えている人は、まずこちらの検索を使ってみるのをおすすめします。
(出典:フラット35登録マンション検索)
3-2. 中古マンションの場合、中古マンションらくらくフラット35検索を活用
中古マンションで探している場合、中古マンションらくらくフラット35検索を活用しましょう。
こちらも新築マンションにおけるフラット35登録マンションと同じように、事業者側がすでに適合証明の手続きを省略するための登録を済ませてくれています。
(出典:中古マンションらくらくフラット35検索)
登録されているマンションは、以下の条件のいずれかを満たす築20年以内の物件となっています。
- 新築時に旧住宅金融公庫の優良分譲住宅、公社分譲住宅、市街地再開発、都市居住再生融資、マンション購入融資または住宅金融支援機構のフラット35登録マンションに係る手続きを完了したマンション等で、住宅金融支援機構の定める耐久性基準に適合していること。
- 都市再生機構が分譲したマンションであること。これには、旧日本住宅公団、旧住宅・都市整備公団及び旧都市基盤整備公団を含みます。
- 住棟単位で中古マンションの適合証明書を取得して、マンション管理組合が住宅金融支援機構に登録手続きを行ったもの。
ただし注意点がひとつあり、適合証明手続きが省略できても、敷地及び建物の権利形態(保留地・転貸借、買戻権の設定等)などの条件によってフラット35を利用できない場合もあります。フラット35の利用にあたっては、物件を管理している販売業者等に確認しましょう。
3-3. 新築注文住宅の場合、設計時から建築会社に伝えておく
新築注文住宅にする場合、設計時点から建築会社に「フラット35を使いたい」「適合証明を取得したい」という考えをはっきり伝えておくことが重要です。
新築注文住宅にするのですから、家の内外には自分が気に入ったデザインや建材・設備を使いたいと思うでしょう。
しかしそれらが適合証明の技術基準をクリアできるかは分かりません。建築途中で「この仕様だと適合証明は取れません」となったら大変なことになります。
それを設計図や仕様書が出来上がった時点で、建築会社・設計士の方に判断してもらうわけです。
ただ新築注文住宅の場合だと、後から「この部分はもっとこうしたいな」といった追加の希望が出てくることもあるかもしれません。そのような時は設計を依頼した先に、仕様変更しても適合証明を取得できるかを漏れなく確認するようにしましょう。
3-4. 中古住宅の場合、事前相談や事前チェックを活用
中古住宅の場合、事前相談や事前チェックを活用し、適合証明を取得できるか確認することができます。
中古住宅で適合証明を取得するには書類審査と現場の目視確認が必要になりますが、適合証明を取得できなかったとしても調査費用はかかってしまいます。それを防ぐために、まずは事前相談等で書類だけ見てもらい、適合証明が取得できそうかどうかを判断してもらうのです。
このサービスを実施しているのは、例えば一般財団法人住宅金融普及協会が挙げられます。ここは中古のマンションと木造戸建てについて、フラット35の利用が可能かを判断する事前相談(無料)を受け付けています。気になる方は、下のリンクから問い合わせをしてみてください。
フラット35適合証明業務 中古住宅 手続きのご案内
余計なコストを抑えるためにも、事前相談等は積極的に活用していきましょう。
4.適合証明を取れない場合の2つの対処法
適合証明を取れない場合はどうすればいいのでしょうか。
残念ながら対処法は多くありません。
適合証明には、どこかひとつでも基準を満たしていない部分があったら取得できないという厳しさがありますが、検査する項目自体は物件の構造そのものに関わる事柄が多いのです。つまり、適合証明を取れない場合に対処しようとすると、構造に手を加えることになる可能性が高いです。
そのため、対処法としては
- 追加工事を行う
- 物件を変える
以上の2つが有力と考えられます。詳しく確認していきましょう。
4-1. 追加工事を行う
適合証明が取れないと判明した場合、追加工事を行うことで対処できる可能性があります。
追加工事は、一応、新築・中古・マンション・戸建てなどの物件の種別を問わず使える手法と言えます。
しかし、例えば中古物件ではまだ人が住んでいたらあまり大掛かりな工事はできませんし、建物の基礎部分など工事が難しい箇所もあるので、全てのケースに対応できるという訳ではありません。
それでも追加工事ができたとしたら、一番気を付けてもらいたいのは工事費用です。 工事する内容や場所によって費用は大きく変わってきますので、当初の住宅予算に影響するようであれば慎重に検討する必要があるでしょう。
追加工事を行う場合は、
- どの部分の工事が必要なのか
- それは工事可能なのか
- 工期・費用はどのくらいか
- 購入スケジュールにどう影響しそうか
- 追加費用によって住宅ローンの返済計画がどう変化する見込みか
などを、しっかり確認した上で取り組んでください。
まずは適合証明の検査業者・不動産仲介業者・リフォーム業者などに聞いてみましょう。
4-2. 物件を変える
中古物件で追加工事ができない、または費用がかかり過ぎて現実的ではないと言った場合には、物件を変えるという手もあります。
その際には、3章でお伝えした“物件ごとの適合証明取得のポイント”を参考に、事前チェックを活用したり、そもそも適合証明が取れる物件から探したりしてみてください。
とは言え、住宅ローンでフラット35を使えるようにするためにせっかく見つけた物件を諦めるというのは、良く考えてもらいたい点でもあります。例えば、もし全期間固定金利タイプの住宅ローンを利用したいという理由であれば、最近は民間の金融機関でも取り扱っているところが出てきていますので、そこから借りるという方法も考えられます。
物件変更は、住宅選びと住宅ローン選びのどちらを重視したいかをよく吟味した上で行うようにしましょう。
5.まとめ
適合証明は、言葉だけ聞くと難しいように感じられてしまいますが、実際は専門業者がやってくれるので難しいことは全くありません。
しかも適合証明を取得できれば、名実ともに質の高い住宅だという証明ができるのです。
住宅購入を終えたら新しい生活が始まります。
その新生活を安心して送るためにも、適合証明の取得ができるような質の高い住宅を手に入れるお手伝いができると幸いです。
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