投資信託の分配金は働かなくても得られる収入として魅力的に映ります。実際に投資信託の分配金で暮らしている人はいるのでしょうか?
本記事では「投資信託の分配金で暮らしている人はいるのか?」をテーマに、投資信託の分配金で暮らすためにはどれくらいの利回りでいくらの資金を必要とするのか具体的な数字で示すとともに、毎月分配型の投資信託の注意点を解説します。
目次
1. 投資信託の分配金で暮らしている人はいる?
投資信託の分配金で暮らしている様子をブログなどで発信している人がいます。ブログの内容が嘘でなければ、投資信託の分配金で暮らしている人は「いる」といえるでしょう。
もちろん毎月必要な生活費は人によって違いますし、分配金利回りもさまざまですから、投資に必要な資金も変わってきます。それでも、それなりの資金を投資にまわせるなら、計算上は投資信託の分配金での生活は実現可能です。
とはいえ、あなたの身のまわりに投資信託の分配金で暮らしている人はいますか?…おそらくいないでしょう。それだけ投資信託の分配金で生活していくハードルは高いからです。
つまり、計算上は分配金で生活できるにしても「現実的かどうか?」の観点でいえば多くの方にとって現実的ではないといえます。
2. 投資信託の分配金で暮らすために必要な資金と利回り
では、実際に投資信託の分配金で暮らすためにはどれくらいの資金と利回りが必要なのでしょうか。月々の生活費が20万円 / 30万円 / 50万円の3パターンでシミュレーションしてみましょう。
(1)毎月20万円の場合
まずは毎月の生活費が20万円(年間240万円)の場合です。 最近は毎月分配型でも利回りが10%、20%を超えるような投資信託もありますが、こうした高利回りはここ数年の相場が好調だからです。比較的現実的な利回りとして3%、5%、7%の3パターンで分配金生活のために必要な資金を算出しました。
分配金利回り | 必要な資金 |
3% | 8,000万円 |
5% | 4,800万円 |
7% | 3,429万円 |
ただし表中の数値は税金や各種コストを考慮していないため、現実的にはもう少し多くの資金が必要と考えておきましょう。
(2)毎月30万円の場合
次に、毎月30万円(年間360万円)のケースも同様に分配金利回りから必要な資金をしてみましょう。
分配金利回り | 必要な資金 |
3% | 1億2,000万円 |
5% | 7,200万円 |
7% | 5,143万円 |
分配金利回りが3%の場合、必要な資金は1億円を超えてきます。 毎月30万円というと、老後の夫婦2人の生活に必要といわれている金額と同程度です。いくら退職金がもらえるとはいえ、1億円を投資するのはなかなか厳しいのではないでしょうか。
(3)毎月50万円の場合
最後に、毎月の生活費が50万円(年間600万円)の場合の試算結果が下表です。
分配金利回り | 必要な資金 |
3% | 2億円 |
5% | 1億2,000万円 |
7% | 8,572万円 |
毎月50万円を分配金で得ようと思うと、利回りが5%の投資信託でも1億円以上、3%なら2億円と、非常に多額の資金が必要です。よほどの大富豪でなければ非現実的な数字といえるでしょう。
3. 現実的な考え方
ご覧のように「夢の分配金生活」を実現するには多額の資金が必要です。具体的な数字をみてハードルの高さを実感できたのではないでしょうか。
現実的な考え方としては、投資信託の分配金を生活費の「足し」にすることです。 たとえば老後の生活費として毎月30万円が必要で、夫婦で毎月25万円の年金を受け取れるなら、不足分は5万円です。
この5万円(年間60万円)を分配金で準備するために必要な利回り、投資元本は下表のとおりです。
分配金利回り | 必要な資金 |
1% | 6,000万円 |
2% | 3,000万円 |
3% | 2,000万円 |
4% | 1,500万円 |
5% | 1,200万円 |
6% | 1,000万円 |
7% | 858万円 |
分配金利回り3%〜5%で安定運用できるなら、定年退職までに1,200万円〜2,000万円を準備できれば、年金と投資信託の分配金だけで生活できます。
生活費のすべてを分配金で賄おうとするのは非現実的でしたが、生活費の不足分を分配金で補う方法なら実現できそうです。
4. 分配金の落とし穴
現実的な考え方として投資信託の分配金を生活の足しにする方法を紹介しましたが、毎月安定して分配金が払われるからといって100%安心できるわけではありません。
実は分配金には普通分配金と特別分配金の2種類があり、このうち特別分配金には注意が必要です。
(1)普通分配金
普通分配金をひと言で表すと、投資信託の収益(元本の値上がりや利子・配当)から支払われる分配金です。 分配金の支払い後、基準価格が投資信託の買い値を上回っていれば、その分配金は普通分配金だと見分けられます。なお普通分配金は純粋な利益であるため、その年の配当所得として課税の対象です。
(2)特別分配金
特別分配金の語感から、なにか特別でよい分配金と錯覚しそうですが、実は真逆です。特別分配金は「タコ足分配」ともいって、元本を取り崩して支払われる分配金です。元本の取り崩しのため投資家にとって利益にはなりません。したがって特別分配金は課税対象にもなりません。
また特別分配金が支払われると、基準価格が投資信託の買い値を下回ります。
なお1回で支払われる分配金が普通分配金と特別分配金で構成されるケースもあります。たとえば1,000円の分配金のうち、800円は普通分配金、200円が特別分配金といった形です。
このケースでは、800円は投資信託の運用で得られた収益から支払われていますが、200円は投資元本を取り崩して支払われています。
毎月安定して分配金が支払われていても、その分配金が特別分配金なら単に投資信託の購入代金が戻ってきているだけです。利益が出ているわけではない点には注意が必要です。
5. 分配型投資信託で生活する際の注意点
分配型投資信託を使って生活(の足し)にするためには、分配金の種類のほかにも注意すべきポイントが5つあります。
(1)分配金の支払額は変わる可能性がある
分配型投資信託では、一定の分配額が保証されているわけではありません。市場環境や運用成績によって変動する可能性をはらんでおり、とくに相場の下落時には分配金も減少するおそれがあります。
生活費として一定額を期待していると、分配金の減少時に生活が苦しくなるかもしれません。分配金は安定した収入源としては不確実な面がある点を理解しておきましょう。
(2)分配金が支払われていても元本を取り崩している可能性がある
分配金が毎月支払われていても、特別分配金が続いている場合は注意が必要です。先述のとおり特別分配金は元本の取り崩しですから、自分の資産を減らしているに過ぎません。
この場合は損失が確定しても投資信託を売却して、より運用成績のよい別の投資信託への乗り換えが選択肢として入ってきます。 分配金に注目するだけでなく、投資元本を健康的に保ちながら長期的な運用を意識しましょう。
(3)そもそも元本が割れる可能性がある
特別分配金によって元本が目減りするだけでなく、そもそも投資信託自体がリスク商品であり、元本が保証されているわけではありません。
投資環境の変動により運用成績が悪化すれば基準価格が下落し、ときには投資信託の購入当初よりも元本が減少する「元本割れ」が起こるかもしれません。たとえ分配金を受け取っていても、元本割れは損が出ている状態です。 投資は余裕資金でおこなうことが鉄則です。無理のない範囲での運用を心がけましょう。
(4)利回りが高ければリスクも高い
分配金利回りの高い投資信託は魅力的にみえますが、それだけ高いリスクも伴います。リスクの高い投資信託は、値動きの幅も大きい傾向がみられます。
相場が好調なときは大きく値上がりしますが、反対に相場の下落時には大きく値下がりしやすいため、元本割れする可能性も高いといえるでしょう。 高利回り=高リスクを念頭に入れて、過去の値動きなども比較しながら慎重に投資信託を選びましょう。
(5)複利の効果が得られない
毎月分配型の投資信託では複利の効果が得られないため、分配金を再投資する投資信託にくらべて元本が増えにくいといえます。
複利の効果とは、運用益を引き出さずに投資していくことで利益がさらに利益を生み、資産が雪だるま式に増加するしくみです。毎月分配型の投資信託は分配金を再投資せず投資家に分配してしまうため、複利の効果を享受できず資産の増加スピードが緩やかになります。
長期的な資産の増加に重きを置くなら、毎月分配型ではなく年2回分配や分配金なしの投資信託を選ぶことをおすすめします。
投資信託の分配金は生活費の「足し」が現実的
最後に、本記事の要点をおさらいしておきましょう。
- 投資信託の分配金での生活は計算上可能だが、非現実的
- 生活費のすべてを投資信託の分配金で得たいなら、最低でも約3,500万円、場合によっては1億円を超える資金が必要
- 投資信託の分配金を生活費の「足し」にする程度が現実的
- 分配金の健全度を示す「分配金健全度」を参考に投資信託を選ぶとよい
- 毎月分配金が支払われていても、特別分配金と元本割れには要注意。投資信託はリスク商品であり、分配金も元本も保証されているものではない
投資信託の分配金で暮らしている人はいるものの多額の資金を必要とするため現実的とはいえませんが、分配金を生活の足しにする程度なら退職金などを使って実現できそうです。
毎月分配型の投資信託を選ぶ際にはリスクを理解し、長く安定して運用するためにも元本を取り崩していないものを選びましょう。
もし、資産=元本を増やしたいのなら、分配金を出さないタイプの投資信託のほうが候補となるかもしれません。 あなたのお金をどうしたいのか、まずい投資をして後悔しないためにも、あらかじめよく考えて運用を始めましょう。
2019年7月29日
text by 久保田 正広
FPバンク