「住宅ローン控除ってどんな年収でも受けられるのだろうか?」
住宅購入を考えて住宅ローン控除という制度を知った時、こんなことを思いませんでしたか?
住宅ローン控除は、千万単位での借入になりがちな住宅ローンの金利負担を軽減するために行われている制度です。問題なく申請できれば10年(場合によっては13年)もの間、毎年数十万の税額控除を受けることができます。
住宅購入にあたってぜひとも利用したい制度ではありますが、実はこの住宅ローン控除、受けられる人と受けられない人がいます。
住宅ローン控除を受けるためには「住宅に関する条件」と「人に関する条件」があり、「人に関する条件」のなかに収入に関連する事柄があるのです。
本記事では、この収入に関連する事柄を以下の5章から解説していきます。
- 住宅ローン控除に年収制限はないが、所得制限がある
- 住宅ローン控除の所得制限は2種類
- 所得制限によって住宅ローン控除が受けられなくなる可能性があるケース
- 住宅ローン控除の控除額も年収(所得)の影響を受ける
- 自分の年収(所得)での住宅ローン控除額を確認する4つのステップ
本記事を読んでもらえれば、住宅ローン控除に年収制限はあるのか、年収はどのように関わってくるのか、自分の年収で受けられる控除額はいくらなのか、などを幅広く把握できます。
住宅購入に当たっての不安をひとつでも解消するお手伝いができれば幸いです。
目次
1. 住宅ローン控除に年収制限はないが、所得制限がある
住宅ローン控除に年収制限はないですが、「合計所得額」に対しての所得制限があります。
年収と所得はただの表現の違いという訳ではなく、明確に定義が異なりますので、住宅ローン控除をしっかり受けるためにも把握しておくことが大事です。
まず、年収とは、その人が一年間に受け取るあらゆる収入の合計です。
税金、社会保険料、個人事業主であれば経費などが差し引かれる前の金額になります。
一方、合計所得額とは、あらゆる収入から所得控除を引いた上で算出される「所得」を足し合わせたものです。
所得は、課税方式の違い(総合課税/分離課税)や、それを得る方法(事業・不動産・利子・配当・給与など)が細かく分かれているので、下図の様にそれぞれ個別に計算していく必要があります。
普通に考えれば、年収よりも合計所得額の方が小さくなりますので、問題なさそうに思えます。
ここで注意が必要かもしれない人がいます。それは会社員の人です。
なぜなら、会社員の人は「年収」=「会社からもらえる給料」と思ってしまっていることが多いからです。
実際、「自分の年収を知りたければ源泉徴収票の支払総額を見ましょう」と説明しているネット記事もよく見かけます。
しかし会社からもらえる給料とは、上図でいうところの給与所得であり、合計所得額の一要素でしかありません。
つまり「年収」=「会社からもらえる給料」と思っている人に給料以外の収入が発生した場合、合計所得額を出すには、他の所得も足し合わせないといけないのです。
すると、年収よりも合計所得額の方が大きくなる可能性が出てきます。
そのため「会社からの給料とは別の収入があった時には、それも所得として合算した上で住宅ローン控除の手続きをする」という意識を持たないといけません。
なお、合計所得額を出すときに会社からもらえる給料以外に収入がなければ問題ありません。
特に確定申告になじみがない会社員の人だと、様々な種類の所得という考え方に接する機会が少ないので、年収と合計所得額を誤解してしまう可能性があるのではないかと思います。
そういったことが起こりうるシチュエーションは、例えば
- 生命保険の解約金を受け取った場合
- 副業で収入を得た場合
- 仮想通貨の利益を確定した場合
などが挙げられるでしょう。これらの中には、確定申告でよく申告漏れが指摘される所得もあります。
これらのシチュエーションの場合、以下のような所得になると考えられます。
シチュエーション | 課税方式 | 所得区分 |
生命保険の解約返戻金を受け取った | 総合課税 | 一時所得 |
副業で収入を得た (事業登録している) |
総合課税 | 事業所得 |
副業で収入を得た (事業登録していない) |
総合課税 | 雑所得 |
仮想通貨の利益を確定した | 総合課税 | 雑所得 |
なお、会社員の人が住宅ローン控除の適用を受けるには、1年目は確定申告が必要ですが、2年目以降は年末調整で申告が可能です。
ですが給与以外の収入がある会社員は、1年目以降も確定申告が必要です。その場合に当てはまる可能性があるなら注意しておきましょう。
また、住宅ローン控除の適用対象かどうかの判定は毎年行われます。
したがって、ある年の合計所得が制限額内に収まらなかったとしても、その翌年に制限額内に収まっていれば問題なく適用されます。前後の年にローン控除を使えたかどうかは問われません。
住宅ローン控除の申告は、前述したように、会社からの給料以外の収入がある会社員の人は特に注意するようにしましょう。
2. 住宅ローン控除の所得制限は2種類
住宅ローン控除に設けられている所得制限は2種類あります。
ただし、以下のように床面積と紐づけられているので、単に合計所得額にのみ気を付けていればいい訳ではないことに注意してください。
- 床面積50㎡以上の住宅の場合:合計所得額2,000万円以下の所得制限
- 床面積40㎡以上50㎡未満の住宅の場合 合計所得額1,000万円以下の所得制限
なお、この所得制限を図に表してみたものが下図です。
これを踏まえて、住宅ローン控除の2つの所得制限の詳細を確認していきましょう。
2-1. 床面積50㎡以上の住宅の場合:合計所得額2,000万円以下の所得制限
床面積50㎡以上の住宅の場合、合計所得額2,000万円以下の所得制限がかかります。
主にファミリータイプの住宅が該当します。上図でいうと赤丸の部分です。
床面積50㎡以上の住宅にかかる所得制限はもともと3,000万円以下でしたが、令和3年12月に発表された令和4年度税制改正大綱にて、制限額が3,000万円→2,000万円に変更されることが示されました。そのため、これまで控除を受けられた合計所得額2,001万円以上3,000万円以下にあたる人は、控除の対象から外れることになってしまいました。
なお、変更された制限額は2021年12月契約から適用されます。ただし2021年12月契約でも月内入居ができるのであれば、これまでの所得制限(3,000万円以下)の適用となる見込みです。
2-2. 床面積40㎡以上50㎡未満の住宅の場合:合計所得額1,000万円以下の所得制限
床面積40㎡以上50㎡未満の住宅の場合、合計所得額1,000万円以下の所得制限がかかります。
主に独身や二人暮らしの住宅が該当します。上図でいうと青丸の部分です。
この条件は、消費増税とコロナによる景気減速に対応するために2021年から追加されました。そのため令和3年~4年までの期間限定の特例措置という位置づけです。しかし昨今の景気動向を考えると、断言はできませんが延長される可能性はあるのではないかと思われます。
【追記】
こちらの所得制限については、2025年(令和7年)までは適用されることが決定しています。
ですが、「令和5年12月31日以前に建築基準法第6条第1項の規定による建築確認を受けた居住用家屋・認定住宅」との制限がついています。
2024年以降に住宅を取得する場合は、築年に注意が必要になるでしょう。
3. 所得制限によって住宅ローン控除が受けられなくなる可能性があるケース2つ
では、所得制限によって住宅ローン控除が受けられなくなる可能性があるケースはどんなものがあるかを確認していきましょう。
2つのケースが考えられます。
- ケース①:合計所得額1,001万円以上で、床面積50㎡ギリギリ超えのマンションを購入する
- ケース②:合計所得額1,000万円以下で、床面積40㎡ギリギリ超えのマンションを購入する
3-1. 合計所得額1,001万円以上で、床面積が50㎡ギリギリ超えのマンションを購入する
1つ目は、合計所得額1,001万円以上で、床面積が50㎡ギリギリ超えのマンションを購入するケースです。
なぜ住宅ローン控除が受けられなくなる可能性があるかというと、マンションによっては住宅ローン控除の判定において「床面積40㎡以上50㎡未満の住宅」に該当することになり、合計所得額の上限が1,000万円以下に変わってしまい所得制限にひっかかるからです。
これに関してポイントになるのは、床面積の測り方の違いです。
実は、マンションの物件チラシに記載される床面積には、壁芯面積(へきしん:壁の厚みの中心測った面積)が用いられることが多く、一方、住宅ローン控除の判定には登記簿上の面積=内法面積(うちのり:内側の壁から測った面積)が用いられます。
それぞれの測り方のイメージは以下の通りです。
物件チラシで一般的に用いられるのは壁芯面積です。図を見てもらっただけでも、内法で測るより壁芯から測る方が床面積を広くできることが分かると思います。
チラシに載せる床面積の測り方については法律で定められていないため、より広く見せられる方法で計測された面積が書かれてしまうわけです。
これにより、住宅ローン控除が利用できるかどうかの判定に用いられる床面積は、物件チラシに記載されるものより小さくなるケースが多いのです。この点を知っておかないと、最悪、住宅ローン控除が利用できなくなります。
この事態を回避する一番の方法は、購入前に内法面積を知っておくことです。内法面積は登記簿に載っているので調べ方としては、不動産業者に確認、または自身での登記簿謄本の取得の2通りがあります。
合計所得額が1,001万円以上で、物件チラシ記載の床面積が50㎡ギリギリのマンションを購入することになった人は、マンション購入前に「登記簿上でも50㎡以上の床面積がある」ことを必ず確認するようにしましょう。
3-2. 合計所得額1,000万円以下で、床面積が40㎡ギリギリ超えのマンションを購入する
2つ目は、合計所得額1,000万円以下で、床面積が40㎡ギリギリ超えのマンションを購入するケースです。
これも理由としては3-1と同じであり、もし内法で測った床面積が40㎡未満だった場合、そもそも住宅ローン控除の対象ではなくなってしまうからです。
なおケース①は、何らかの方法で申告する合計所得額を1,000万円以下にできれば対象になれます。
しかしこちらのケースは合計所得額をどうにかしても対象にはなれません。床面積40㎡未満の住宅は所得額を問わず住宅ローン控除の対象外なのです。この点は忘れずにいてください。
原因と考え方は2-1で述べたことと同じく、マンションの床面積の測り方が2通りあるからです。
繰り返しになりますが、自分の把握している床面積が、物件チラシに掲載されているもの=壁芯面積なのか、住宅ローン控除の判定に使えるもの=内法面積なのか、は必ず事前に確認しておくようにしましょう。
4. 年収(所得)は住宅ローン控除の控除額にも影響を与える
年収(所得)は住宅ローン控除の控除額にも影響を与えます。
仕組みの全体像と、年収別での所得税・住民税の金額を確認しておきましょう。
- 控除されるお金はその年に納めた所得税と住民税
- 【年収別】所得税・住民税一覧
4-1. 控除されるお金はその年に納めた所得税と住民税
住宅ローン控除で控除されるお金は、その年に納めた所得税と住民税です。
控除という言葉だとイメージしづらいかもしれませんが、確定申告または年末調整をすると還付金として戻ってくる仕組みになっています。
基本的には、所得税から優先的に控除されます。そして所得税を全額控除しても枠が余ってしまう場合は、住民税からも控除されます。ただし住民税から控除できる金額は上限が決まっていることに注意です。
ファイナンシャルプランナーとして相談を受けていると「住宅ローン控除は年末のローン残高の0.7%を必ずもらえる制度」と誤解している人がいますが、正確には納めた所得税と住民税の金額の範囲内になり、必ずしも0.7%になるわけではないことをしっかり認識しておきましょう。(※令和4年から1%→0.7%に引き下げられました)
4-2. 【年収別】所得税・住民税一覧
年収別に所得税・住民税がいくらになるかを確認しておけば、自分が受けられる住宅ローン控除の金額を知る手掛かりになります。
年収300万円~1000万円(50万円刻み)での所得税・住民税を確認しておきましょう。
ただし、住宅ローン控除で受け取れる金額として加算できる住民税は最大9.75万円(令和4年~)になっている点には注意してください。
5. 自分の年収(所得)での住宅ローン控除額を確認する4つのステップ
最後に、自分の年収(所得)での住宅ローン控除額を4つのステップで確認していきます。
- 自分の所得税・住民税の金額を確認する
- 借入している住宅ローンの年末時点の残高×控除率の金額を確認する
- 購入した住宅における最大控除額を確認する
- 各年の1~3の中で最も小さい額が、自分が受けられるローン控除の金額
本章では、以下の条件で住宅を購入するAさんを参考に、住宅ローン控除で受けられる金額が具体的にどのように決まるのかを見ていきましょう。
Aさんの前提条件
- 職業・収入等:会社員(給与以外の収入なし)、当初の年収550万円(年1%ずつ上昇)
- ローン条件等:借入額4,000万円・期間35年・固定金利1.3%
- 購入する住宅:省エネ基準適合住宅、令和4年に居住開始
※住宅ローン控除の適用期間は13年としています。11~13年目の控除対象額については、令和4年度税制改正が正式に施行される際に計算方法が変更される可能性があります。
5-1. 自分の所得税・住民税の金額を確認する
まずは、自分の所得税・住民税の金額を確認します。
4章でお伝えしたように、住宅ローン控除で控除(還付)されるお金は、その年に納めた所得税と住民税です。
Aさんの年収について住宅ローンを借入した年は550万円、その後は年1%ずつ上昇していくと想定し、所得税と住民税がどう推移するか確認してみます。
Aさんには会社からの給与以外の収入がないため、年収=合計所得額となります。
そして年収が上昇するにつれて所得税・住民税の納税額も上がっていきます。ただし、4-2でも述べたように住宅ローン控除で受け取れる金額を計算する上で、加算できる住民税は最大9.75万円(令和4年~)であることを忘れないようにしましょう。
5-2. 借入している住宅ローンの年末時点の残高×控除率の金額を確認する
2つ目に確認するのは、借入している住宅ローンの年末時点の残高×控除率の金額です。
年末時点の残高は、10月頃に自分が借入している先の金融機関から送られてくる「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」で確認することができます。
そして控除率は、今回の税制改正で一番注目された重要な項目ですが、令和4年度から控除率1%→0.7%に引き下げられることがほぼ決定しました。
Aさんが借入した住宅ローン(借入額4,000万円・期間35年・固定金利1.3%)の場合、ローンの年末時点の残高×控除率0.7%はいくらになるのか確認してみます。
住宅ローン残高は毎月の返済によって減少するので、控除額0.7%をかけた値もそれに応じて減っていくことになります。
5-3. 購入した住宅における最大控除額を確認する
3つ目に確認するのは、購入した住宅における最大控除額です。
これは、住宅ごとに定められている借入限度額×控除率で計算できます。
借入限度額とは、借入した住宅ローン残高のうちローン控除の対象にできる金額の上限のことです。
令和3年までは住宅の区別が2種類で控除率1%だったため、最大控除額は以下の2通りでした。
①認定住宅:借入限度額5,000万円×控除率1%=50万円
②一般住宅:借入限度額4,000万円×控除率1%=40万円
しかしこちらも令和4年度税制改正にて、控除率が1%→0.7%に下がることに加えて、住宅の区別がさらに細かくなること(2種類→6種類)と、居住を開始した年によっても借入限度額が変わることが示唆されました。
それらを踏まえて計算した最大控除額は次のようになりました。
同じ種類の住宅だったとしても、令和4年~5年に居住を開始する方が借入限度額が高く、1年あたりの最大控除額も高くなることが分かります。
Aさんが購入した住宅は③省エネ基準適合住宅の新築等なので、令和4年~5年に居住開始すれば、借入限度額は4,000万円・1年あたりの最大控除額は28万円(4,000万円×0.7%)となります。
早めに購入した方が住宅ローン控除の適用額が高くなるからといって購入を焦る必要はありませんが、自分の購入した住宅の種類では控除期間・借入限度額・1年あたりの最大控除額がどうなるのかは漏れなくチェックしておくようにしましょう。
5-4. これら3つの中で最も小さい金額が、自分がその年に受けられるローン控除の金額
最後のステップは、5-1~5-3で確認してきた3つの金額の比較です。この中で最も小さい額が、自分がその年に受けられるローン控除の金額となります。
では、Aさんの場合どうなるかをまとめたものが下の表です。 3つの金額の中で最も小さいものを赤字にしています。
1年目は所得税+住民税の金額が最も小さくなりましたが、2年目以降からはずっと年末ローン残高×0.7%が最も小さい金額という結果となりました。実際のところ、この3つの中では年末ローン残高×0.7%が控除額になりやすいと考えられます。毎月の返済で金額がどんどん小さくなっていくからです。
なお計算上は、借入額を多くして控除期間中の残高が借入限度額を割らないようにすると、住宅ローン控除を最大限受けられると言えます。
例えばAさんのケース(期間35年・固定金利1.3%)では、約6,000万円の借入をすれば13年目まで年末ローン残高は4,000万円を割りません。ただしこれは、住宅購入後の生活において金銭的な余裕が十分あると見込めない限りは、あまりやるべきではないでしょう。
住宅ローン控除で受けられる金額がどのくらいになるか把握しておきたい時には、ここで紹介したステップを踏んで確認してみてください。
6.まとめ
本記事では住宅ローン控除と年収の関係についてまとめました。
もともとの制度からしてやや複雑なのですが、景気動向などを考慮して制度改定をしているのでさらに複雑になってしまっている感が否めません。しかし住宅ローンの金利負担を軽減してくれる役割をもった良い制度だと思います。ですので、誤りのないように申告してしっかりと制度の恩恵を受けましょう。
住宅ローン控除については、制度の全体像・金額・制度の利用期限・中古マンションでの申請など、様々な記事を執筆していますので、ぜひそれらもお読みください。
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