言葉の印象だけで言えば、「贈与=プレゼント」のように捉えている方も多いかもしれません。実はこの両者、似てはいますが同じものではありません。民法によって規定されている「贈与」の意味を見てみましょう。
目次
1.贈与ってなんだろう?
(1)贈与は「契約」である
実は民法上では、贈与は「契約」とされています。「物を贈ったりもらったりするのが契約?」と違和感を覚える方もいらっしゃるでしょう。この場合の「契約」とは、贈る側が贈与する意思を示し、もらう側が受け取る意思を示すことで初めて成立する関係のことを言います。つまり、相手の意思を確認せずに一方的に送りつけたプレゼントは「贈与」にはならないのです。
(2)贈与は取り消すこともできる
「契約」と言うと書面を交わすことをイメージしがちですが、民法上は必ずしも書面は必要ではありません。両者の合意があれば、口約束だけでも立派に契約として成り立ちます。贈与に関して言うと、書面に残さず且つ実行もされていない贈与は撤回することができます。「後で○○をあげるよ!」という口約束はいつでも取り消すことができると民法が定めているのですから、面白いものです。
2.相続との違い
贈与と混同しやすいものに、相続があります。両者の違いを考えてみましょう。
(1)相続との違い
先程の話と逆になりますが、資産をもらうという行為は同じでも相続は「契約」ではありません。被相続人が亡くなった場合は、相続人の意思に関係なく相続が発生します。中には借金などのありがたくない負の資産もあるでしょう。この場合は相続が発生した上で、相続放棄などの手段をとることで負の遺産を受け継ぐことを回避できます。
(2)遺贈とはなにか
さらに「遺贈」という言葉もあります。「遺言で指定された贈与」という意味で、贈与者の死亡を原因として発生する贈与です。相続と間違えやすいのですが、あくまで贈与ですので受け取る側(受贈者)の意思が必要です。相続との違いは、相続は法定相続人しか対象となれないのに対し、遺贈は第三者に対しても行うことができます。
ただし、相続人を蔑ろにした遺贈はトラブルの元。遺留分などに気をつけて、慎重に行うことが大切です。
3.税法上の贈与
「贈与」と「相続」。税の世界ではこの両者は仲間とされています。より正確に言えば、税法上では「贈与税は相続税を補完するもの」と位置づけられています。
(1)税法的には相続の一部
なぜ贈与税は相続税の一部なのか。簡単に言えば、「贈与税は相続税逃れを防ぐために存在するもの」だからです。
実際は、贈与税のほうが相続税より高いのですが、これが逆だったらどうなるでしょうか。資産のある方は我先に自分の資産を子や孫に贈与するに違いありません。そうすることによっていずれくる相続税の負担を軽くできるのであれば、贈与税を払ってでもそうするでしょう。それを防ぐために国は贈与税をこれほど高く設定しているのです。
(2)上手く使えば相続税の節税は可能
ですから、まともに贈与を行っていては相続税を節税することはできません。ただし、贈与税にはいくつか「非課税の特例」が設けられていますので、それを有効活用することはできます。有名なところでは「住宅取得等資金の非課税枠」があります。非課税になるためにはいくつかの要件がありますが、子や孫に住宅資金を援助することで、喜ばれるだけでなく将来的な相続税節税にもつながるのです。
4.まとめ
贈与を行うシチュエーションは様々です。ただこれだけ贈与税が高いと、あげる側ももらう側も想像していたほどの効果が生まれないことが多くあります。なんのために贈与をするのか。その金額や実行する時期に応じて、賢い方法を考えてみましょう。
2019年10月26日
text by 久保田 正広
FPバンク