民法の相続規定が40年ぶりに改正されます。中でも高齢化が進み、残された妻や夫が安心して老後生活をおくれる様に今回新たに新設された配偶者居住権ですが、その具体的な内容について分かり易く解説していきます。
1.配偶者の居住権って?
今回の民法改正で、相続後の配偶者居住権が新設されました。パートナーの死亡で残された配偶者は、所有権がなくても、配偶者居住権が得られれば、そのまま今の住居に住み続けることができるようになります。
2.どんなメリットがあるの?
住み続けられるということに加えて、所有権を得るよりも居住権の方が評価を下げるというメリットがあります。配偶者が所有権を相続した場合は、所有権を相続した分、現金などの取り分が少なくなり貧しい生活を強いられるケースもあります。これまでは、相続発生時に夫婦以外の第三者に住居を相続された場合、残された配偶者が退去を迫られることも少なくなかったようです。
3.さらに婚姻20年以上だと優遇される?
今回の民法改正では、配偶者居住権の新設に加えて、婚姻期間が20年以上ある夫婦であれば、居住用不動産を生前贈与するか、遺言で贈与の意思を示せば(遺贈)、特別受益とは評価されず遺産分割協議の対象から外れることになりました。ただし事実婚の場合は優遇が受けられないので注意が必要です。
4.なんで居住権が新設されたの?
これまでは、遺産が自宅しかない場合で遺産分割協議をするとき、配偶者が他の相続人に対して、代償金を支払えるだけの預貯金を持っていればよいのですが、持っていない場合は自宅を売って相続分を分けなくてはいけませんでした。売ってしまうわけなので、当然、配偶者は自宅から出て行かざるを得なくなり、引っ越しを余儀なくされることとなっていました。
高齢の配偶者が住み慣れた住居を離れて新たな生活を始めることは精神的にも肉体的にも困難になると考えられましたが、配偶者居住権の新設で、それらを防止することを可能にしました。
5.いつから使えるの?
配偶者居住権を含む、民法の相続規定の改正案は、2018年7月に成立・公布されました。
施行は「公布の日から2年を超えない範囲内において政令で定める日」とされているので、2020年7月までには使えるようになる見込みです。
6.注意点
まず、この配偶者居住権を残された配偶者が手にするには以下のいずれかの要件が必要です。
(1)遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき
(2)配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき
(3)家庭裁判所の審判など
さらに、配偶者居住権は譲渡することはできません。つまり、所有権がなければ売却して現金化することはできないのです。将来、介護施設に入らなければならなくなった時や住み替えがしたくなった時などに困るかもしれません。ですので、安易に評価減になるからといって居住権だけ相続するのは危険かもしれません。将来のライフプランや資産状況など全体像を見ながら考える必要があるかと思います。
2019年3月26日 text by 久保田 正広 FPバンク