親もだいぶ年を取り、そろそろ相続の事が心配になってきたけど、自分の場合は相続税ってどれくらいかかるんだろう? 今日はそんな不安に答えるため、相続税の基本ルールからお話しします。
1.相続税 基本ルールの確認
(1)相続税とは
相続税は、個人が被相続人(亡くなられた人)から、相続などにより財産を取得した場合に、その取得した財産に課される税金です。
(2)相続税がかかるかどうか、主な確認のポイント
①遺産の一部を取得したこと
相続税は、相続や遺贈(遺言)などで財産を取得した人が対象となります。
相続放棄の手続きを取るなど、そもそも財産を取得しない人は対象になりません。
②遺産の合計額が、基礎控除額を上回っていること
相続税は、相続税法で定める方法で計算した遺産の合計額が、次の基礎控除額を上回った時に課税されます。
「遺産に係る基礎控除額」=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
<計算例>
- 配偶者と子2人 3,000万円+600万円×3=4,800万円
- 配偶者と子1人 3,000万円+600万円×2=4,200万円
- 子2人 3,000万円+600万円×2=4,200万円
従って遺産の合計額が3,000万円以下なら相続税はかかりませんが、それを超える場合には、この基礎控除額を上回るかを、先ずチェックする必要があります。
③遺産の合計額は、相続税独自のルールで計算する
相続税の計算に使用する遺産の額については、相続税法に独自のルールがあります。
預貯金はほぼ残高の額と考えれば良いですが、遺産の中に株式や投資信託など価格が変動する金融商品や土地がある場合は、どう評価されるかが重要となります。
特に土地については、相続税の評価基準が詳細に決められていますが、その水準はおよそ時価の8割くらいと言われており、時価2,500万円の土地でも相続税では2,000万円前後の評価になるイメージです。
④小規模宅地等の特例
土地については、例えば亡くなった人と生計を共にして暮らしていた家族が相続した場合には土地の評価額を最大2割まで減額するような「小規模宅地等の特例」というルールも非常に重要です。
土地が遺産の大半というような場合は、この特例の適用次第で、相続税がかかるか、また相続税の額にとても大きな影響がある事になります。
但しこの特例の適用を受けるためには、相続税の申告ルールに従い、死亡日の翌日から10か月以内に税務署に申告書を提出する必要があります。
⑤配偶者の税額軽減
相続人が亡くなった人の配偶者の場合は、相続した遺産の額が1億6,000万円までか法定相続分相当額までであれば相続税はかからない、という特例も重要です。
従って例えば遺産の合計額が1億6,000万以下の場合、全部を配偶者が相続することにすれば、その相続では相続税はかからない、という事になります。
但しこの特例を適用するにも、死亡日の翌日から10か月以内に税務署に申告書を提出する必要があることや、この特例適用のために配偶者の相続財産を大きくすると、将来に配偶者から子が相続する場合(二次相続)に相続税が増える影響を考慮しておく必要があります。
(3)相続税の税率は? いくらぐらいかかるの?
①先ず、法定相続分ごとに相続税額を計算して、相続税総額を計算
例えば、遺産合計額が1億円、相続人が配偶者1人・子2人の場合、
課税遺産総額=1億円-基礎控除額4,200万円=5,800万円
法定相続分ごとに相続税額を計算すると、
配偶者分=(5,800万円×1/2)×税率15%-50万円=385万円
子ども分=(5,800万円×1/2)×税率15%-50万円=385万円
となり、
相続税総額は385万円+385万円=770万円となります。
なお、相続税の速算表は次の通りで、累進税率となっています。
<相続税の速算表>
区分 税率 控除額
1,000万円以下 10% -
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円
②実際の相続割合に応じて、相続税総額を負担
上記の例で、もし配偶者が8割、子が2割の財産を取得した場合は、
配偶者の相続税負担=770万円×80%=616万円
⇒ただし「配偶者の税額軽減」が適用されると0円
子どもの相続税負担=770万円×20%=154万円
となり、この計算結果により納税することになります。
2.ここがポイント「相続対策」
(1)節税対策
相続税の負担を減らす代表的な対策としては、次のようなものがあります。
①生前贈与で遺産を減らす
- 生前贈与
- 「住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」制度の利用
- 「教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税」制度の利用
②遺産で大きな割合を占める事が多い、土地の評価を下がる制度の利用
- 「小規模宅地等の特例」が適用される状況を作り、土地の評価を下げる
- 「貸家建付地」の制度を利用して、土地の評価を下げる
これらを上手に利用するためには、それぞれ気をつけなければならない点がありますし、どれが有効かはお持ちの財産や家族状況によっても変わって来るので、不安に思う時は専門家に相談することをお勧めします。
(2)遺産分割対策
実は節税対策よりも大切なのは、遺産分割で揉めない事、合意できる事です。
もし遺産分割で揉めていて、相続税の申告を期限内に行わないと、先にご紹介した「小規模宅地等の特例」「配偶者の税額軽減」という大きな節税策が使えなくなりますし、相続税に関わらず、遺産分割で家族が揉める事は、誰もが避けたいと思います。
そのための対策としては、遺言書を作ってもらうというのがひとつですが、所定の要件を満たさないと無効になってしまうので、注意が必要です。
また、土地が遺産の大半で、その土地を処分や分割はしたくないというような場合は、遺産分割の額を土地の代わりにお金で精算できる資金準備が必要となるので、そうした対策には生命保険の利用などが有効です。
(3)納税資金対策
できる相続税対策を行ったとしても、相続税が数百万円~数千万円という大きな額になる事はあり、それを申告期限である死亡から10か月後までに納付する必要があるので、その資金をどう準備するかを考えておくことが必要となります。
自分の預貯金や相続財産の預貯金で対応できれば良いのですが、それで不足する場合、それ以外の資産を急いで処分したり、一時的に借り入れをしなければならないとすると、とても大変です。
こうした場合の対策としても、生命保険の保険金という形で資金が用意できるようにしておくと効果的です。
3.まとめ
将来の相続に備えて、上手に対応するためには、次の5つがポイントになります
- 常に最新の知識・情報を収集する
- 生前贈与などの補完的制度を活用し相続財産を減らしていく
- 不動産や生命保険を活用し資産を圧縮する
- 相続争いを回避するために遺言書の作成や保険金受取人の設定を考える
- 1つの対策に偏りすぎないこと(効果以上に弊害が生じることがあります)
2019年10月11日
text by 久保田 正広
FPバンク